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第3回 「ジュラシックパークの可能性」

医学部教授 斉藤 隆

 先頃、スピルバーグ監督の映画「ジュラシックパーク」が大ヒットした。琥珀の中の蚊が吸っていた恐竜の血液から、遂に恐竜を創り上げ、本物の恐竜の棲むパークを実現化してしまうのである。現在の遺伝子操作の技術を背景に、「なるほど」と思わせてくれる。しかし、実際にはどこまでが可能で、何が解明されれば本当に可能性がでてくるのか、はよく考えてみるとなかなか難しい。これは、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase chainreaction:PCR)という画期的な方法を基本としている。この方法によってDNAの断片が1本でもあれば、目に見える程のDNAに増幅することができるのである。さしずめ昔ショウジョウバエが、何もないところに群れをなすほど育つのを見て、無から生命が生まれると信じられた時代があったが、同様に、まるで無から有をつくるようでドラマチックなのである。このPCRは、今や、身体にウイルスが感染しているかどうか、子供が遺伝病であるかどうか等、他の方法では測ることの出来なかった、無いに等しかったものを検出できる。血液鑑定よりもずっと鋭敏に犯人の割り出しが可能なので法医学や裁判の基礎となっている。

DNA の複製

 さて、PCRなる近代的手段で、太古の恐竜の一部のDNAを手にすることができるわけである。しかし、個体をつくるための遺伝情報としてのDNAは非常に長いので、とても蚊の血液の中からでは創りきれない。そこで、近い種の動物(例えばカエル)のDNAと恐竜のDNAを切り貼りして繋ぎ合わせて創り、これを似たような爬虫類の卵の中に入れ込んで、恐竜を生まそうというわけである。生まれた動物は実はカエルと恐竜の混ざったDNAから創られた(キメラという)のである。ここで重要なことは、何が恐竜と他の動物(例えばカエル)とを区別しているのか、という点である。どこまで恐竜由来のDNAならば恐竜としてのRNA、蛋白質、そして臓器や体を形成できるか、が個体を作り上げる上で重要な点である。更に、生体は、必ず決まった組織に決まった蛋白質を作らなければならない;例えば、アルブミンは肝臓のみで、インシュリンは膵臓のみで作られなくてはならない。この「組織特異性」は、生体の調節の上で、正しい時期に、正しい場所に、正しい量だけ蛋白質を作る法則を知らなければ不可能である。しかも個体を作り上げているほとんどの蛋白質についてこれを厳密に行わなければ生命は成り立たない。この調節の法則を現在の分子生物学は解明しようとしている。実際、たった1つの遺伝子が異常だったり、働かなかったりするだけで先天性の遺伝疾患になってしまう。逆に現在、ある一つの遺伝子だけを無くしてしまうことが可能になり、あるホルモンだけのないマウス、ある酵素だけのないマウスなどが多数作られている。このことは逆に、ある酵素だけを作れない先天性遺伝疾患を正常に戻すことも人工的に可能で、所謂、遺伝子治療の将来の方向を示している。要するに、現段階では、単一遺伝子を色々操作することは可能になったものの、膨大な数の蛋白質の集合としての組織や、まして個体の全てをDNAから作り上げるのはやはり神業であり、分子生物学は、限りなく神に近づこうとしている、のが現実である。

(千葉大学発行『「知」の世界へようこそ』 第1集より)

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