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第26回 「クスリを飲んだあとそのクスリはどうなるの?」

医学部教授 北田 光一

 どうして病気の時にクスリを飲むのだろう。クスリを飲むとどうして病気が治るのだろう。でもクスリは副作用があるっていうし、飲み合わせが悪いのもあるらしいし、どうしてもという時以外使いたくないな。なんて思っている方はいませんか。クスリはどうして効いて、どうして副作用がでて、どうして飲み合わせが悪いってことがおきるのか?いったい、クスリと体の関係はどうなっていると思いますか?薬剤部は、ちょっと見には不可思議なクスリというものを、薬学という科学的背景を持って医療に貢献する薬剤師の集まりです。

 では、クスリは体の中でどうなっていくのでしょうか?特に、クスリを長い期間飲み続ける慢性疾患の場合では、体中クスリでいっぱいになってしまうのでしょうか?実は体の中でクスリは、吸収・分布・代謝・排泄という過程を経て動いているのです。その動きは、有機化学、生物化学、物理化学を基礎として、生物薬剤学、製剤学、薬物動態学などを使うことによって理解することができます。そして、クスリそれぞれの動き方の特徴によって飲む量、飲む時間、してはいけないことなどがきまってくるのです。さらに、クスリの飲み合わせによる相互作用や副作用を予測し回避することができるのです。では、クスリの体の中での動きをちょっとのぞいてみましょう。

 クスリは口から飲まれただけでは効きません。先ず、体をまわる血液中に入らなければなりません。実は消化管の中は、体の外なのです。したがって、飲んだクスリが消化管の中で溶けて、しかも吸収されるクスリの形(分子型)である必要があります。たとえば、抗生物質のテトラサイクリンを牛乳と一緒に飲んだりすると、消化管の中で牛乳のカルシウムイオンとキレート反応してしまい、吸収されないクスリの形になってしまうので、カルシウムを含むものと一緒に飲むのを避けなければなりません。

 無事、吸収ルートに乗ったクスリも実は、十二指腸や空腸の粘膜上皮細胞に存在する様々な酵素により、クスリの中には異なる形に変換(代謝)されてしまう場合があります。酵素の作用で薬効を持つ活性体になる場合もあれば、逆に薬効が無くなる場合もあります。解剖学的には薄い消化管壁といえども、クスリにしてみると、分厚い壁にみえるかもしれません。

 消化管壁を無事通過できたクスリは、多孔性の毛細管壁を容易に通過し、腸管膜静脈に入ってきます。腸管膜静脈は何本もの血管が少しづつ合流していき1本の大きな流れ(門脈)になります。クスリは血液の流れに逆らえず、流されていきます。流されながらクスリは血液中の蛋白(アルブミン、α1酸性糖蛋白)にしがみついている場合(蛋白結合)もあります。血流に乗ったクスリは門脈を通り肝臓へと流れていきます。肝臓には薬物を代謝する酵素が体中で最も多く存在するため、クスリはここを無事に通過するのは難しいようです。代謝により薬効を持つ活性体になる場合もあれば、逆に薬効が無くなる場合もあります。腸管壁に続き肝臓の関門と、本当の意味での体内(体循環血中)に入るまでには、一難去ってまた一難というところでしょう。

 肝臓を何とか通りぬけたクスリは、中心静脈から肝静脈に入り、やがて静脈の利根川とでもいえる下大静脈に入ります。クスリは血液の流れに身を任せ、心臓をめがけて流れていきます。やっと体を循環する本線に入り込んだわけです。また、いきなり体循環に入り込んできたクスリがいます。彼らは、静脈内投与や舌下投与や直腸投与されたクスリたちです。これらの投与ルートは、経口投与ではクスリが体循環までたどり着けなかったり、口からクスリを飲んでもらえないときや、薬効をすぐ期待するときなどに、威力を発揮するルートです。クスリは心臓から肺を経由してまた心臓に戻り、大動脈に入り、全身に拡がっていきます。さながら血液というジェットコースターに乗っているかのような勢いで流れていきます。血液に乗りながら、やはりクスリの中には血液中の蛋白であるアルブミンやα1酸性糖蛋白にしがみついているものが見られます。アルブミンには結合の程度の差はあれ、クスリ全般が結合し、α1酸性糖蛋白には塩基性のクスリが結合しています。さあ、クスリが作用を発揮する標的器官に向けてジェットコースターでビューン!!!という具合に、これから先、オシッコやウンチの中にクスリが出ていくまで、体の中のクスリの動きはまだまだ長いのですが、紙面の関係で省略します。クスリの体の中での動きを、それぞれの過程を理解することによって、クスリの適正な使用ができるのです。

 抗ウイルス薬と抗ガン薬の飲み合わせの悪さから死亡例がでてしまった、相互作用による薬害がありました。これは、抗ガン薬を効かなくさせる酵素を、抗ウイルス薬が邪魔をしてしまったことにより、抗ガン薬が大量にいつまでも体の中に留まってしまったことになり、抗ガン薬の副作用がとても強くでてしまったものでした。このように、効かない形にし体外に出す過程(代謝や排泄)での相互作用は命とりになりかねません。このような観点から、薬剤部ではクスリの動きを特に代謝の面から研究しています。数あるクスリがどの酵素で代謝されるのか?クスリの代謝を邪魔するものがあるのか、特に安全と思われがちな漢方薬は代謝を邪魔しないのか?新生児のクスリを代謝する能力・特徴は大人とどう違うか、またそれはなぜ違うか?

 クスリはひとたび使い方を誤るととんでもない猛毒に変身し、人を死に至らしめる場合があります。クスリと上手に付き合い、クスリの持てる有効性を最大限に引き出すのがわれわれ薬剤師の努めです。 

(千葉大学発行『「知」の世界へどうぞ』 第2集より)

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