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第25回 「がん細胞について」

医学部附属病院助教授 中野 雅行

 からだの具合が悪くなると病院に行き医者に診てもらい病気の診断がついて治療が行われます。レントゲン、超音波やCT等でからだの中の調子(異常のかた まりや欠損)をみたり、血液や尿の成分を調べて異常を見つけて、病気の診断をします。最近では、医療機器の進歩でからだの中の細かい構造まで画像で見える ようになって来ています。血液の流れる量、方向等まで分かるようである。しかし、それらはあくまで画像であり陰影である。がんの治療には、異常な部分がど のような構造になっているのか(がんの分類)を知る必要があります。患者さんのからだの一部を採ってくる。例えば胃カメラを覗いているときに胃の一部をパ ンチで挟んで採ってくるとか、からだの外側から針を刺して肝組織を採ってくる(穿刺肝生検)。顕微鏡でからだ(組織)を構成している細胞が正常の構造から どのように異なっているかによって診断(病気を分類)するのが病理組織診断です。

 病理学は、現在からだの組織がどのような状態(病気)であるのか、それは何故そうなったか(病因)、また今後どうなってゆくのか(予後)を調べる学問で、様々な病気の診断(病気の分類)の基礎を成すものであり、医学の基礎となっている。

 今のところ病気の分類は病理学的分類でなされているが、それは、からだを構成している細胞の変化をもとに分類されている(細胞病理学)。病気の分類を理 解する為に細胞のことをちょっと説明しましょう。からだは生命保持等の為、呼吸、循環、消化器系等種々の働きをする器官の集合からできている。器官とは臓 器がそれぞれの働きをし易いように集合している系列である。消化器系であれば口、食道、胃、腸、肝臓、膵臓など、が集まってひとつの系を作って機能を営ん でいる。そして、臓器は種々の細胞が集まってできている。たとえば肝臓は肝細胞や胆管細胞等肝臓の機能を担う細胞の集合からできている。即ち、からだはい ろいろな働きをする細胞の集合体と言うことである。そして、病気とは細胞が障害された状態といえる。

 からだは様々な機能を持った細胞が集合し規律正しく存在しそれぞれ自分の責任(機能)を果たしている。しかし、自分勝手に動きまわる細胞が生じることが ある。がんは細胞がからだの中で反乱を起こした状態と考えることができる。なぜ、そのような自分勝手な細胞ができるのであろうか。細胞の再生・増殖を考え てみよう。私は、肝臓病理が専門なので肝臓で説明しましょう。肝細胞はウイルスやお酒(アルコール)で障害を受け、ウイルス性肝炎やアルコール性肝障害を おこす。肝細胞が脱落すると再生がおこる。肝細胞は再生の旺盛な細胞で、生体部分肝移植で提供者の一部を切除してもすぐ再生でもとの大きさに戻る。そし て、元の大きさに戻ると、それ以上は再生しない。これが、生体の制御(コントロール)を受けている状態で、からだは常に一定の状態に保つように制御されて いる。これをホメオスターシスといいます。

 ところが、欠損・再生を繰り返していると、生体の制御をはずれていつまでも再生(増殖)をする細胞ができることがあり、これが、腫瘍である。周囲の組織を 破壊したり、血管の中に入って、他の臓器に行って増殖することを転移という。悪性の根拠でありがんや肉腫といわれる悪性腫瘍は転移し、臨床(治療)の最大 難関であります。

 顕微鏡でがん細胞を見ると、正常の細胞と比べて形が不整形でおおきく、大小不同で、細胞の中にある核(遺伝情報のつまっているところ)も大きく不整形であ る(写真参照)。また、その細胞をささえている間質という組織との係わりも崩れていて、このような細胞や組織の正常状態からのずれ(異型性)をがんの病理 形態学的診断の根拠にしている。

 がんは遺伝子レベルの異常が何個も重なって、生体のコントロールを受けないで異常増殖するようになった状態であると言われている。この遺伝子の異常を調べて診断する方法もあり遺伝子診断といわれている。

 核の中の遺伝子情報に従って細胞質内で蛋白質が作られ細胞が作られる。遺伝子レベルが異常になった細胞でも、細胞の形の異常が現れなければ顕微鏡での診断 はつけられない。がんが発生しても小さいうち(早期)は症状も現れず、発見が困難であり、症状が現れる頃はがんも大きくなっていることが多く(進行期)臨 床的にみつかり臨床診断がつけられる。

 このように、がんの診断は色々なレベルの診断がある。しかし、がん細胞はがんになった瞬間からがん細胞である。がんの本質とつながる何らかの変化を早い段階で見つけること、しかも診断が容易にできることが今後の課題である。若い諸君の活躍を期待します。

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正常な肝細胞

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肝細胞癌のがん細胞

(千葉大学発行『「知」の世界へどうぞ』 第2集より)

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