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第23回 「画像と数学」

医学部教授 佐藤 甫夫

 「医は算術」というのは相当にきつい冗談であるが、医学と数学は意外に関係が深い。例えば、データの統計処理は日常的に用いられている。以前は手計算で行った計算がいまはコンピューターで簡単に計算できる。身辺に何台もコンピューターを置く時代になった今では考えられないことだが、1965年頃、私が脳波の分析にフーリエ解析を始めたころは、数表と算盤片手に手計算を行っていた。

 IBMがフォートランを開発したのは1956年、西千葉の計算センターでフォートランプログラムを利用できるようになったのは、1968年頃であったと思う。トランジスターは1948年に発明されていたが、まだ真空管時代の計算機が一台、今のワークステーションなら20台は置ける広いスペースを占拠していた。この脳波のフーリエ解析は一次元のフーリエ変換である。正直のところフーリエ変換は、これ以上医学とは関係がなさそうだとおもっていた。

 ところが、1973年英国でCT(コンピューター断層撮影装置)が開発された。この断層撮影法は画期的である。この発明により1979年、コーマックとハウンズフィールドはノーベル賞を受賞している。画期的なところは、体内組織の各部位のレントゲン線の吸収係数をある方向に積分したもの(投影と呼んでいる)を測定し、100方向程度の投影を測定し、これらの測定値から、体内のレ線吸収度の分布をコンピューターにより正確に計算し画像として表示することである。これほどコンピューター向きのぴったりとした仕事は当時は無かった。投影と元の画像を結びつけている関係が二次元フーリエ変換である。
 次いでMRI(核磁気共鳴断層撮影)が登場する。MRIは近代化学の粋を集めたもので、大変に凝った機器である。測定の対象は原子核(現在は主に陽子、水素の原子核)のスピンである。これは量子論の領域である。核磁気の共鳴を研究したパーセル等は1952年、ノーベル物理学賞を受賞している。意外なことにこの核磁気共鳴の診断的応用については、既に1971年に英国のダマジアンが特許を申請している。

 体内には水素原子が至るところに存在しているが、蛋白の含有量や周囲の分子の状態によって、共鳴吸収後のスピンの減衰の程度が異なる。また核スピンは局所的な磁場の強さに比例して周波数が瞬間的に変化するため、二方向から勾配磁場を加えて部位毎の周波数と位相に変化を与え、どの場所のスピン信号なのかを判別可能にする。測定される信号は、全平面からの信号(周波数、位相が異なる)を合成したもので、パット現れパット消える、せいぜい20-30ミリ秒程度しか持続しない多相性のパルスであるが、そこにはフーリエ面の一直線上のすべての値が含まれている。MRIでは原画像のフーリエ変換が定義されている座標空間をK-スペースと呼んでいる。

 CTとMRIに共通しているのは空間的に分布しているある量(CTの場合はレ線吸収度、MRIではスピン密度、縦緩和時間、横緩和時間などの関数)の二次元フーリエ変換値を測定して、それを逆変換して画像を作っていることである。このように画像診断においてはフーリエ変換が大活躍している。
 
 以上は画像診断の背後、いうなれば縁下を支えている数学の話しである。いろいろな誤差やノイズの問題を除外するとして、測定値と画像との間に極めて正確な数学的関係が存在していることを知るのは大きな安堵感をもたらすものであった。驚くべきことに、これらの数学的理論は18世紀後半から19世紀前半には既に明らかであったことである。先人の知恵にあらためて敬服、感嘆するほかはない。

 MRIにはこのほかにも色々な応用がある。MRIアンギオグラフィー(血管を抽出)や、局所血流の変化を画像化することにより脳の局所機能を調べるfMRIなどである。また組織内でのプロトンの拡散係数を画像に表すこともできる。これらの詳細は省略する。

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図1 原点に円柱を置いた場合のK-スペース

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図2 20個の角柱を配置した場合のK-スペース

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図3 有機溶剤中毒における脳白質病変(MRI)

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図4 音声を聞いて活動を増している聴覚野(fMRI)

(千葉大学発行『「知」の世界へどうぞ』 第2集より)

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