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第21回 「強くてしなやか -腰骨の話-」

医学部附属病院講師 高橋和久

 現在、腰痛をもつ人の割合は人口の30パーセントに達するといわれます。また、一生の間に2人に1人以上が腰痛を経験するともいわれます。なぜ、それほど腰痛に悩む人が多いのでしょうか。

 腰痛は人類が四足歩行から二足歩行へと進化した際に宿命的に生じたものかも知れません。二本の脚で立ち上がったため、背骨(脊柱:せきちゅう)は全身の重さを直立した状態で支えなければならなくなりました。当然、腰を中心とした背骨には大きな力がかかることになります。また、人類が二足歩行になったからといっても骨盤は依然として30度ほど前傾しており、このまま2本の脚で支えようとすると、上体は前に傾いてしまいます。そこで、脊柱に緩やかなカーブ(弯曲)が生じました。首(頚椎:けいつい)と腰(腰椎:ようつい)では前に反っており、胸(胸椎:きょうつい)の部分ではうしろに反っています。このカーブがクッションとなって、人は直立し重い体を支え、バランスをとることができるようになりました。

 ところで人の脊柱は32~35個の椎骨(ついこつ)と呼ばれる骨が連結されてできています。すなわち、上から頚椎(7個)、胸椎(12個)、腰椎(5個)、仙椎(5個ありますが癒合して1つの骨になっています)、そして尾椎(3~6個)と呼びます。それぞれの椎骨は椎間板と椎間関節(図1)で連結されており、椎間板は弾力性に富んだ軟骨組織であり、ゼリー状の髄核(ずいかく)と線維軟骨である線維輪(せんいりん)からなっており(図2)、衝撃に対してもおおきな抵抗力があります。すなわち、椎間板は強さとしなやかさを合わせ持った組織ということができます。しかし、年をとるにつれて椎間板の髄核中の水分は減少し、椎間板全体の高さも次第に低くなってきます。こうなると椎間板はクッションの役割がはたせなくなり、さまざまな障害が生じてきます。一方、椎間関節は主として背骨の動きのコントロールを行いますが、ここにも加齢的変化が生じます。

 胸椎は通常第1腰椎から第5腰椎まで5個あり、上は胸椎、下は仙椎とつながっています。腰椎は椎骨の中でも大きな力を受けており、例えば第4腰椎と第5腰椎との間の椎間板には普通に立っているだけで体重の1.4倍、前にかがんだ姿勢では2倍の力がかかるといわれます。人体に対するさまざまな衝撃は、脊柱の弯曲と椎間板の働きでうまく吸収されることはすでにお話ししました。しかし、このために腰には大きな負荷がかかることになり、腰痛に悩む人も多くなるわけです。

 ここで、代表的腰痛疾患である腰椎椎間板ヘルニアについてお話しします。「ヘルニア」という言葉は内容物が本来あるべき場所から逸脱してくることをいいます。例えば、鼡径ヘルニア(股のつけねに生ずる脱腸)、臍ヘルニア(出べそ)などヘルニアという名のついた病名はいろいろあります。椎間板ヘルニアは髄核が線維輸の亀裂を通って逸脱し、脊柱管内の神経を圧迫し、腰痛や下肢痛を生ずる病気です(図2)。最近、椎間板ヘルニアについていろいろと新しいことが知られるようになりました。以前は椎間板ヘルニアのある人は必ず腰痛や下肢痛があり、一度生じたヘルニアはそのまま存在し、縮小したりはしないと考えられてきました。ところが、最近の磁場を用いた画像診断法MRI(magnetic resonance imaging)などの進歩により、無症状の人にもヘルニアがよくみられることや、脱出したヘルニア塊が自然に吸収・縮小することなどが分かってきました。ある研究によれば、現在も過去にも腰痛や坐骨神経痛を経験したことのない67人のうち、約1/3に椎間板の異常がみつかり、また、60歳以下の人の20パーセントにヘルニアがみつかりました。また、ヘルニアの自然吸収・縮小についても、そのメカニズムやどのようなヘルニアが縮小するかなどの研究が進んでいます。

 これらの研究の進歩により、人類がその宿命ともいえる腰痛から解放されることをこころより願っております。

図1 腰椎の運動単位は、椎骨、椎間板、つい間関節などからなり、各方向への回旋、変位などの動きをする。

図2 椎間板ヘルニアの模式図 椎間板ヘルニアとは線維輪の亀裂を通り髄核が脱出したものをいう。
(a) 遊離脱出型  (b) 脱出型  (c) 突出型

(千葉大学発行『「知」の世界へどうぞ』 第2集より)

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