Web講座

第20回 「自分の身体の中身を見ませんか?」

医学部教授 伊東 久夫

  皆さんがテレビでよく見る透視の話ではありません。自分の身体がどの様になっているか、他の人とどこか違いが無いか、興味はありませんか。30年以上前、ミクロの決死隊という映画がありました。詳しい内容は忘れましたが、人間が数mm位に小さく変身し、口から体の中に入り込み、病気を見つける話です。人間が小さくなって体の中に入り検査する方法は、ずーと先の将来にも可能性はなさそうです。しかし、現在のレントゲン検査法は、洋服を着たまま寝台の上に寝ているだけで、身体の表面から体の中の構造まで見えてしまいます。ベッドの上に寝ているだけで、痛みも危険もありません。

 1895年、今から約100年前にドイツの物理学の先生が、真空管の実験をしていて、X線を偶然見つけました。X線の名前の由来は、普通の光の様ですが、普通の光とは違う得体の知れない未知のもの、としてX線と呼ばれました。また、発見者の名前にちなんで、レントゲン線ともいいます。普通の光は物体に当たると、反射して陰しか見えません。X線は光の一種ですが、軽い元素からなる物体の中を通過します。しかし、重い元素に当たると通過することが出来ません。これを医学に利用して、体の中の軽い元素と重い元素の分布を見るのが、レントゲン検査です。水や空気の様な軽い元素からできた部分は、レントゲン線が通過します。骨のように重い元素から出来た部分は通過しません。みなさんは小学校以来、健康診断で胸のレントゲン検査をしていると思います。その写真を見たこともあると思います。あの写真は体の部分の厚み全体を、原始の密度の点として表現しています。単なる白黒写真で身体の凹凸等は何もみえず、何の面白みもありません。しかし、レントゲン線の発見以前は体の外から推測していたことが、実際に見えるようになり、極めて大きな進歩でした。一方、重なり合った影絵を見るだけですので、その推測される物体の形を判断する場合、医師ごとに想像する物体が異なりました。

 最近20年位の間に、理学工学領域の科学技術の進歩を取り入れ、レントゲン検査も著しく進歩しました。下に示した写真は最近のレントゲン検査で、頭の様子を撮したものです。体の部分を原子密度の点で表した時代から、二次元の分布として表すことの出来る時代になりました。これはコンピュータの著しい進歩のおかげです。体の部分を点として表現することから、体の部分を二次元の面として表現しています。写真の左側は、正常なヒトの脳を輪切りにした様子です。脳の中には白く見える部分と、灰色に見える部分があります。亡くなった方の頭の中を調べさせていただくと、この写真と全く同じです。すなわち、現在は元気に生活しているヒトの体の中を、正確に透視することが出来るようになっています。このような検査法はCTスキャン、あるいはMRIと呼ばれています。現在、医療では日常極めて広く利用されています。さらにここ10年位は、コンピュータ・グラフィックの進歩で、三次元に表現することが可能となりました。これが医学のレントゲン検査にも利用され、二次元の平面画像から三次元立体画像に進歩しました。写真の右側は、ヒトの脳を三次元の立体画像で示したものです。顔の表面の鼻の高さ、耳の形から、頭の中の脳の様子まで一目で分かります。この様な画像が得られるようになり、誰でも簡単に理解できるようになりました。影絵ではないため、物体の形を推測する必要もなくなりました。現在の病気の診断や治療には、このような三次元の画像が利用出来ます。もちろん、みなさん誰でも身体の表面から中の様子まで、数分で簡単に分かります。この様に体の様子を画像として抽出し、病気の診断をする研究分野が放射線医学です。

 体の中の様子を形として見ることは容易になりました。さらに最近のコンピュータの進歩で、可能性は日進月歩に広がっています。20年前には想像することも出来なかったことが、現在では数分で完了してしまいます。ただ、残念ながらこの形を抽出する技術から、働きを推測することは出来ません。例えば、ここに示した写真でも、脳の襞の数や形の違いは一目瞭然です。しかし、このヒトは頭が良いか悪いか、あるいはどの様な感情を持っているか、何を考えているかは分かりません。病気の様子を理解するためには、身体の部分の形と共に、その働きを正確に把握する必要があります。将来、この働きも分かる時代にするためには、若い人々が新しい発想と努力で、研究を積み重ねていく必要があります。医学にはこの様に未解決で、これからまだまだ研究を要することが、限りなくあります。

(千葉大学発行『「知」の世界へどうぞ』 第2集より)

PageTop