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第17回 「人はなぜ老いるのか」

医学部教授 齋藤 康

 若い世代のひとにはあまりピンとこないことかもしれないが、ある年齢になると“年をとったね”とか“ふけたね”とかあるいはときには“あのひとは若いね”などという会話をきくことがあるでしょう。そこにはあきらかに暦の年齢とは違ったものを感じているのでしょう。このようなことをいう根拠には顔の皺とか体形とか頭髪の状態などがあげられ、ときには歩く動作や聞こえにくさなどの機能の変化を知っていう場合もあるだろう。われわれはなんなとなく老いていくことをある概念として受け入れているのである。医療の現場にあっても、病気を診断したり治療したりする時に、年齢すなわち老化(老いの程度)ということを考えずには行われないといっても過言ではなく、この本質を知ることの大切さは他言を要しないでしょう。

 また老化ということはこんなとりあげられかたもしてきました。

 ほんとうにふるくから“不老長寿の薬”のはなしがあるように、この老化をおさえて永遠に生きられないかという挑戦が行われてきたのも人間の歴史のようにおもわれる。それは質は変わってもいまも大きな変化ではないようにおもわれる。

 このようなことを考えると、なんとかして老いていくことを防ぐ方法を根本的に見つけだせないだろうかという撞れをいだくのは人間として当然でしょう。

 さて、ではそれを乗り越えるにはどんな手法がもとめられるだろうか。病気の原因などを知る手段として動物モデルを開発することがある。老化のモデルにはマウスがあります。もちろん老化していくことを正確に知るために無菌の状態で長く飼育してその経過をみるという手法もあります。動物ですから勿論人とは違ったところがありますが、白内障(目のレンズが曇る)、骨折しやすい、などいろいろみられます。これをもちいていろいろな老化の症状のおこってくる機序や考え方が示されています。しかしなかなか人の老化の機序を説明するきめてにはなってないかもしれません。

 では、人間ではどうか。早く老いるという症状が出現する病気が1904年ドイツの眼科医、Otto Werner によって報告されました。この病気は思春期以後に徐々に白髪、皮膚の萎縮(老人にみられる皮膚の皺状の変化)、筋肉の萎縮(老人にみられる手、足が細くなっている状態)、白内障、低身長、がんの発生などがみられて、30歳位であきらかに50歳後半の容貌になるのである。このようなことから早老症という診断名さえあるのである。楽しい病気というのはありませんが、きわめて悲惨な病気です。しかしこの病気を詳しく検討することから、このような病気はわれわれに将来の医学におおきな示唆をあたえてくれます。それはこの早老症という病気にはなにか早く老いさせる機序が内蔵されているのではないかということを考えさせるからです。なにが違ってこのように早く老いるのかということである。この問題に私たちは挑戦しています。 

 人間の細胞は分裂をくりかえしてつねに新しい細胞になっているというところがあります。皮膚などはそのひとつです。“しわしわ”になる皮膚は細胞での若返りが出来にくいということではないかとかんがえて、細胞の分裂について研究されたのがあります。その結果では新生児からえた細胞では培養すると60回分裂した。すなわち若返りをしたといっていいかもしれません。しかし、60歳のひとからとってみるとそれは40回しかしませんでした。このことは細胞は個体のなかにあってもある一定の細胞分裂しかできないような装置になっているとも言えるかも知れません。これだけから考えると細胞分裂を正しく永遠におこなえさえすれば、老化はおこらないかもしれない。では早老症ではどうか。約10回の分裂で死にいたるという結果で、きわめて分裂回数が少ないことがわかりました。つぎにはどうして分裂回数が少なくなるのかということであるが、いろいろな研究が行われているが、現在その全貌はあきらかにされてはいない。

 遺伝子解析による検討から、分裂を抑制する遺伝子の過剰発現や早老症に特異な遺伝子の存在の可能性などが指摘されるようになっている。これらの研究の発展はおそらく治療の可能性を示してくれるであろう。しかしまだ遠い道のりを覚悟しなければならないようである。研究の進歩がのぞまれる。

(千葉大学発行『「知」の世界へどうぞ』 第1集より)

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