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第16回 「ニューラルネットワークは肝臓の診断に役立つ

医学部教授 税所宏光

 ニューラルネットワークとは、人間の脳の仕組みをまねた情報処理技術です。約140億個ともいわれる人間の脳神経細胞は、外界から受け入れた情報を、緊密に結びついた二ューラルネットワークによって並列分散処理しています。脳の持つ優れた並列情報処理を発達めざましいコンピュータ技術を用いて人工的に実現しようというのが、ニューラルネットワークシステムです。

 いま私たちが使っているコンピュータはノイマン型コンピューターと呼ばれ、プログラムそのものを完全かつ正確に計算する直列情報処理システムで、理論的に確立されているアルゴリズムを実行する場合には抜群の威力を発揮します。しかし、パターン認識のように数式化・定型化しにくい問題処理では最適なアルゴリズムを構築することが難しく、コンピュータの計算能力が十分に生かされないのです。

  人間は乱れた手書きの文字を読んだり、騒音の中で聞きたい人の声だけに耳を澄ましたりするような高度な情報処理を難なく行っています。これはコンピュータと脳とが行う情報処理システムがまったく異なっているからであると考えられます。コンピュータで行われる数学的アルゴリズムとは違って、脳内ではアナログのパターン認識を並列分散処理する非理論的な計算を行っているのです。 

 脳は学習によって過去の経験を蓄積し、それ自体の性能を向上させています。その脳の学習は、シナプス結合の強弱の変化によって行われていると考えられています。ニューラルネットワークモデルのlつであるバックプロバゲーションでは与えられた入力データに対して、出力層の指示されたニューロンが活性化するように調整し、各ユニット間の重み付けを計算して学習します。

 さてニューラルネットワークの得意とするアナログ情報処理が対象とする分野は、いわゆる人間の五感であり、すなわち視覚、聴覚、味覚、嗅覚そして触覚での情報処理に関するものです。視覚系モデルは、最も実績のある応用分野であり、通常の文字や手書き文字などの認識、画像の認識や加工などのために利用されています。

 千葉大学医学部第一内科では肝疾患の患者さんもみています。その代表的疾患は肝硬変で、超音波検査にてよく診断できます。その特徴は再生結節と呼ばれる肝臓内の3-10mmの結節で、超音波では斑状のパターンとしてとらえられます。今までは、その程度を肉眼的に4段階に分けて判定してきました。しかし、この判定には専門的トレーニングが必要であり、また同一検者間であっても、再現性に問題がありました。そこで、千葉大学工学部情報工学科と共同研究により、ニューラルネットワークに典型的肝実質内部像を教師信号として学習させ、超音波画像処理システムを作成しました。これを使用すると、肝実質の粗さの程度を常に専門医並みのレベルで客観的に判定でき、さらに定量化することが可能となり診療に役立っています。

(千葉大学発行『「知」の世界へどうぞ』 第1集より)

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